引火点
定められた試験条件で、液体から発生した蒸気に点火したとき、一時的に炎が生じる最低の液温です。
引火点は自然発火温度や、燃焼を継続する温度とは異なります。試験方法が異なる数値を単純に比較することはできません。
Physical Properties and Static Electricity of Fuels
燃料を安全に貯蔵・取り扱うためには、引火点、密度、相対蒸気密度、可燃範囲などの物理的性質を理解することが重要です。
このページでは、ガソリン、エタノール、灯油、軽油及びA重油を対象に、JISの品質規格と、官公庁資料または製造者SDSに示された代表的な物性値を区別して整理します。
同じ名称の燃料でも、製品、組成、季節区分、号数などによって性状が異なるため、実際の計画や取扱いでは使用する製品の最新SDSを確認してください。
JISは燃料製品として満たすべき品質を定める規格であり、引火点、密度、相対蒸気密度、可燃範囲のすべてを一律に規定しているものではありません。
このページでは、JISに定めのある項目を「規格値」、JISに直接定めのない物性を官公庁資料または製造者SDSによる「代表値」として明確に区別します。
燃料ごとに適用される主なJISと、このページで扱う項目に関係する規格値を整理します。
| 対象 | 主な規格 | このページに関係する主な規格値 | 確認上の注意 |
|---|---|---|---|
| 自動車ガソリン | JIS K 2202:2023 | 密度(15℃)0.783g/cm³以下 | 引火点、相対蒸気密度及び可燃範囲は、同規格の品質項目としては規定されていません。 |
| 燃料用エタノール | JIS K 2190:2011 2021年確認 | 自動車ガソリンの基材及びETBE原料に用いる燃料用エタノールの品質を規定 | 一般的な消毒用、試薬用又は水溶液のエタノール全体を対象とする規格ではありません。 |
| 灯油 | JIS K 2203:2023 | 引火点40℃以上 | 1号及び2号に区分されます。密度、相対蒸気密度及び可燃範囲は、同規格の品質項目としては規定されていません。 |
| 軽油 | JIS K 2204:2023 追補1:2026 | 特1号・1号・2号・3号:引火点50℃以上 特3号:引火点45℃以上 密度(15℃)0.86g/cm³以下 | 低温特性により5種類に区分されます。実際に使用する号数を確認する必要があります。 |
| 重油 | JIS K 2205:2026 | 重油の品質及び種類区分を規定 | 引火点、密度、粘度などは種類及び製品によって異なります。このページの物性表ではA重油のSDS例を掲載します。 |
規格値と代表値は意味が異なります。規格値は製品が満たすべき範囲又は限度であり、代表値は特定製品や単一物質の性状を示す参考値です。
次の表は、官公庁資料または製造者SDSに示された代表的な物性値と、消防法上の一般的な分類及び指定数量を整理したものです。
| 対象 | 引火点 | 密度・相対密度 | 相対蒸気密度 空気=1 | 可燃範囲 容量% | 消防法上の代表的整理 指定数量 |
|---|---|---|---|---|---|
| ガソリン 製造者SDS例 | -40℃以下 TAG・推定値 | 0.70~0.78g/cm³ 15℃ | 3~4 | 1~7 推定値 | 第四類・第一石油類 非水溶性液体 200L |
| エタノール 単一物質の公的データ | 13℃ 密閉式 | 相対密度0.789 20℃/4℃ | 1.59 | 3.3~19 | 第四類・アルコール類 400L 消防法上のアルコール類に該当する場合 |
| 灯油 製造者SDS例 | 40~75℃ TAG | 0.76~0.83g/cm³ 15℃ | 4~5 | 1~7 推定値 | 第四類・第二石油類 非水溶性液体 1,000L |
| 軽油 製造者SDS例 | 45~110℃ PM | 0.80~0.86g/cm³ 15℃ | 5以上 | 1~7 推定値 | 第四類・第二石油類 非水溶性液体 1,000L |
| A重油 製造者SDS例 | 60~120℃ PM | 0.82~0.90g/cm³ 15℃ | 5以上 | 1~7 推定値 | 第四類・第三石油類 非水溶性液体 2,000L |
TAG:タグ密閉式引火点試験 PM:ペンスキーマルテンス密閉式引火点試験
ガソリン、灯油、軽油及びA重油の物性値は、ENEOS株式会社の各製品SDSに示された代表例です。エタノールは、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に掲載された単一物質のデータです。
製品の組成、号数、製造者及び測定方法によって数値は異なります。消防法上の品名は、実際の製品の性状及びSDSに基づいて確認してください。
指定数量未満でも規制がなくなるわけではありません。貯蔵・取扱数量や方法に応じて、設置地域の火災予防条例による基準や届出が適用される場合があります。
定められた試験条件で、液体から発生した蒸気に点火したとき、一時的に炎が生じる最低の液温です。
引火点は自然発火温度や、燃焼を継続する温度とは異なります。試験方法が異なる数値を単純に比較することはできません。
密度は単位体積当たりの質量で、温度によって変化します。石油製品では15℃の密度が用いられる例があります。
相対密度は、基準となる物質の密度との比です。従来の「比重」という表現だけでは測定温度が分かりにくいため、このページでは条件を併記します。
同じ温度・圧力における空気の密度を1とした場合の蒸気の密度比です。
1より大きい蒸気は空気より重く、低所、くぼみ、ピットなどに滞留しやすい性質があります。
可燃性蒸気と空気の混合割合が、着火によって燃焼を伝ぱし得る濃度範囲です。
閉鎖された空間では、急激な燃焼によって圧力が上昇し、爆発的な現象となるおそれがあります。濃度は換気や蒸発によって変化するため、範囲外であることだけを安全の根拠にはできません。
引火点が低いため、液体そのものだけでなく、周囲に発生する蒸気と着火源の関係を考える必要があります。
ガソリンより引火点が高くても、加熱、霧化、漏えいなどによって可燃性蒸気又はミストが生じる場合があります。「引火点が高い=火災危険がない」ではありません。
表に掲載した蒸気は空気より重いため、低所、排水溝、ピットなどへ移動・滞留する可能性があります。発生源から離れた場所の着火源にも注意が必要です。
においの感じ方には個人差があり、臭気の有無と可燃範囲は一致しません。安全確認は、設備条件、換気状態、測定結果などを含めて行う必要があります。
ガソリンや灯油などの導電性が低い液体は、流動、ろ過、移し替え、噴霧などに伴って静電気が発生し、電荷が蓄積することがあります。
接地だけで、すべての静電気を除去できるわけではありません。接地は主に導電性の設備や物体に有効ですが、絶縁性材料や導電性の低い液体では、別の対策も含めて検討する必要があります。
防爆構造の電気設備と静電気対策は別の安全対策です。可燃性蒸気が発生又は滞留するおそれのある場所では、設備条件に応じて、換気、危険場所の検討、防爆構造の電気設備及び静電気対策をそれぞれ確認します。
「湿度を75%以上にする」という一律の基準は掲載しません。湿度は静電気の発生・蓄積に影響する要因の一つですが、加湿だけで安全を確保できるものではありません。設備及び作業条件に応じて、専門的な検討が必要です。
このページの数値は、JISの規格値、官公庁の公的データ及び製造者SDSの代表値を区別して掲載しています。
JIS K 2202、JIS K 2203、JIS K 2204、JIS K 2205及びJIS K 2190の現行状況は、日本規格協会及び日本産業標準調査会の公開情報で確認しています。これらの石油関係JISの原案作成団体は石油連盟です。
消防法上の品名及び指定数量は、消防法及び危険物の規制に関する政令に基づく一般的な整理です。混合物、濃度の異なる製品及び特殊な製品は、実際の性状により分類が異なる場合があります。
個別の貯蔵・取扱計画、危険場所、防爆設備、静電気対策及び消防手続の適否は、設備の設計者、保守事業者その他の専門家並びに設置場所を管轄する消防本部・消防署へ確認してください。